2018.12.14
2018年度 第3回カッティングエッジレポート
大学・研究機関の研究内容や、研究が目指す未来像などを広く紹介する「カッティングエッジ」という公開セミナーを実施しており、今年度の第3回目は「食欲の秋!味覚・嗅覚 研究開発最前線」というテーマで、九州大学の都甲潔教授と、同志社大学の眞部寛之准教授の2件の講演を実施いただいた。さらに、今回初の試みとして、島津製作所の喜多純一氏に企業の開発事例の紹介をいただいた。また、「けいはんな研究シーズ発表会」として、大学と企業からホットな研究トピックスのポスター発表を行い、参加者との交流を深めるとともに各研究分野での掘り下げた議論を行った。
【講演1】味覚センサの応用展開と人工嗅覚システムの開発
(九州大学 都甲 潔 教授)
味覚・嗅覚の研究第一人者として著名な都甲教授より、味覚・嗅覚の基本知識をもとに、それらのセンサの開発の現状と応用展開について講演いただいた。味覚は5つの基本味からなり、様々な味覚はこの基本味に分解できるのに対して、嗅覚は基本臭がなく、PPM以下のレベルで匂いが混在している。それらの計測センサの開発によって、味覚・嗅覚の研究が進み応用展開が可能となった。面白い例として、麦茶+牛乳+砂糖を混ぜると「コーヒー牛乳」と同じ味になるが、これも味覚センサで測定すると同じ基本味になることが分かった。また嗅覚センサでは、人間には認識困難なビールや泡盛の銘柄の嗅ぎ分けが高精度で出来るようになる。これらのセンサ技術によって、食のナビゲーションツールとしての展開が期待できる。
【講演2】匂いを感じる脳のしくみ-「おいしさの脳科学」の幕開け
(同志社大学 眞部 寛之 准教授)
味わいの主役であるフレーバー感覚(風味感覚)を決めている「匂い」について、その神経回路機構や脳のしくみをマウスでの実験で検証した。匂い入力には、オルソネーザル経路(鼻から口へ抜ける経路)とレトロネーザル経路(口から鼻に抜ける経路)があり、このうち口から鼻へ抜ける経路(レトロネーザル経路)がフレーバー感覚の主役である。このフレーバー知覚の神経回路機構についてマウスを使って実験し、この結果から、人のフレーバー知覚の神経回路機構を研究し、匂い情報の知覚の解明によって、匂いを使ったおいしさの科学、食の楽しみに応用できることの可能性が示唆された。
【事例紹介】複合臭分析に欠くことが出来ないにおい識別装置
(島津製作所 喜多 純一 氏)
においの3つの側面、成分量・嗅覚感覚量・嗜好型官能評価のそれぞれについて、分析する手段は、機器分析(成分と濃度)・におい識別装置(においの強さと質)・脳計測(主観的表現)となる。この中で複合臭を分析する「におい識別装置」について、その原理とデータ分析、応用例について紹介いただいた。
【けいはんな研究シーズ発表会(ポスター発表交流会)】
同志社大学:6件、島津製作所:1件、クリーンバブル研究所:1件、フィトンチッドジャパン:1件のポスター発表を実施した。今回はアカデミア以外に企業のポスター発表も実施し、多様なテーマについて、コーヒーブレークでのフランクな雰囲気の中でも熱心な質疑応答と議論が深められた。